2009年4月15日水曜日

『スズキのインド戦略』

ムンバイ出張でインドの自動車に興味を持ったので、『スズキのインド戦略 「日本式経営」でトップに立った奇跡のビジネス戦略』(R・C・バルガバ著、島田卓監訳、中経出版社)を読む。

『スズキのインド戦略 「日本式経営」でトップに立った奇跡のビジネス戦略』

著者はスズキのインド子会社、マルチ・ウドヨク社の元社長。ゆえに著述が本業ではないので、淡々と話が進んでいく感じ。情熱的な出来事や、いかにピンチを克服したかなど、ビジネス書にありがちな緩急がないので物足りなさは感じるが、成功までの事実が静的に書かれているのでわかりやすい。

マルチがパートナーを探しているとき、「他のメーカーも偉い人(役員)があいさつに来たそうです。ただ、最初のあいさつをして握手をしてお茶を1杯飲んだら、「あとは一緒に連れてきている課長や部長とミーティングしてください」と言ったと。トップとして最初から最後まで話しをしたのは私だけだったそうです」と鈴木社長は述べている。27年前のインドはまさに発展途上国。今で例えるならば、アフリカの小国から訪れてきて現地で自動車を一緒に作ってくれないかともちかけてくるのと変わらないと思う。そしてほとんどの人は、将来性がないと感じてもしょうがないかもしれない。そうであれば、トップではなく部下に任せてしまうだろう。一方で、もし相手がメルセデスやBMWだったらトップが相手をしたと思う。未知の国であっても礼を尽くして相手した鈴木社長の存在は大きい。

マルチは当然として、スズキも国内メーカーとしては下位グループである。お互いが中小メーカーだったからこそ、上を目指そうという考えが一致した。また、当初の出資比率26%だったが(2002年に54.21%になりスズキの子会社化)、製造や教育はスズキ側、販売とマーケティングはインド側とし、お互いを尊重しあったことも大きい。自動車産業における教育については『ザ・トヨタウェイ』の方が詳しいが、モノ作りの原点は現場であることがここでも理解できる。

ボーナスを成果主義にすることにより、減ることもあるが実績を出せば増えることで社員のコスト意識、業績への関心を強めさせている。ただ、「労働組合のリーダーのひとりは、自分たちの支持基盤を拡大するため、契約社員全員を正社員にするべきだと唱え始めた。(中略)しかし、マルチの組合員の態度はまったく違った。ボーナスの支給額の基礎となる従業員1人当たりの生産性を算出する際、契約社員までが対象に含まれれば、生産性、そしてボーナス額は大幅に減少することになる。私たちがその点を指摘したためだ。契約社員を正社員にという声は、すぐに萎んでしまった」とあり、国が違っても同じ問題があり考えさせられる。

普通の人が思いがちなカーストの問題はマルチに限らずインドの企業活動において影響はあまりないらしい。これは職場では宗教や出自は無関係として接しているためとしている。ただし、外国企業や大企業ほどそうでないと告発されやすいというのもあると思う。

一方で一番大変だったと述べているのが、インド独特の法制度、旧来の慣習に染まっている役人や幹部、部品メーカーの育成。法制度や慣習については説得と教育で、部品メーカーについては下請けではなくパートナーとして接することで乗り切っている。これら努力について著書は、マルチと同じ努力をすれば他業種でもインドで応用できるのにマルチの成功だけが注目されてしまっていると嘆いている。

今はまだ中間層が購入しやすい軽自動車がインド市場にマッチしているが(タタモーターのナノは凄いですが)、いずれは普通車が売れる時代も来ると思う。そのとき、スズキはどうするのだろうか。本書では将来について触れられていないが、スズキが描く将来像を知ってみたくなった。

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