2010年2月5日金曜日

『炎熱商人』

ブックオフ以外の新古書店で買った、『炎熱商人』(深田祐介著、文芸春秋)を読む。


『炎熱商人』

1982年の直木賞受賞作。物語上の設定も1970年と約40年前のことが描かれている。そもそも読もうと思ったのは、南米での商社マンの活動に興味を持ち、ちょうど新古書店の100円コーナーにあったこともあり、商社マンの王道を知るべく買ってみた。

物語は高度成長の勢いに乗る日本の商社が、フィリピンでラワン材の買い付けに奔走するというもの。そこに現地人との色恋沙汰や、温厚な上司に本社風を吹かす生意気な中堅社員といった、物語に色を添える人々が登場する。ただし、物語の半分は現地採用社員(ローカル)の戦争中の回想で占められており、それが予想外であった。しかし、1970年代といえば第二次世界大戦が終わってまだ25年後なので、当時としては当然なのかもしれない。ローカルは戦争中に慕った日本軍将校に温厚な支社長を重ね合わせて物語りは進んでいく。

今は戦争が終わって65年以上経ち、インターネットで時間を問わずやり取りが行えるなど当時とは雲泥の差だが、仕事より社内政治を優先したり、支社(現地)の事情を考えずに本社の意向を投げてくるなど、サラリーマン社会の縮図は変わっていないと思う。

本当は商社について造詣を深めるつもりであったが、昔の直木賞は骨太だったなというのが感想。今はエンターテイメント化してしまい、話題性が優先されているが、この当時は重厚な文学に贈る賞だったと思う(たぶん)。

温厚な上司が尊敬するラッフルズの言葉、「イギリスの名をしてアジア諸国民のあいだに荒廃を招く嵐として記憶せしむるな」「圧迫の冬枯れどきから、生命を蘇らせる春の微風として記憶せしめよ」を持ってビジネスをしている人はいないと思うが、他の人よりは海外で仕事をする機会に恵まれているので、襟を正そうと思う(きっと)。

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